映画「蛇の人」感想|知らず知らずに人は口車に乗せられて

こんにちは。

はるき ゆかです。



この作品は、WOWOWのシナリオ大賞を受賞し、WOWOWで放送後、劇場公開となりました。

実はとても怖いストーリーなのですが、一見静謐な物語のように感じる不思議な映画です。

その理由は、脚本の素晴らしさ、西島秀俊と永作博美というこの演技派俳優二人の演技力のなせるわざでしょうか。

「蛇の人」 あらすじ

三辺陽子(永作博美)が出社すると、会社は大変な騒ぎになっていた。部長の伊東が自殺し、課長の今西(西島秀俊)が行方不明になっているという。陽子は取りあえず葬儀の手伝いに行くが、部長の妻、牧子は何故か今西の話ばかりをする。葬儀の後、陽子は副社長に呼び出され、今西が横領で逃げている疑いがあると聞かされる。しかもその証拠を伊東部長が握っていたという。陽子は会社の命令を受け、今西を探すことになるが…。(C)2010 WOWWOW INC

[引用元]Amazonプライムビデオ「蛇の人」あらすじ

正体不明な今西

西島秀俊演じる今西は、とても仕事が出来て、社内のエースだと言われています。

会社の上層部にも信頼が厚く、課長として部下にも頼りにされています。

ある日、永作博美演じるベテラン営業事務員の三辺が出社すると、部長が自殺したと聞かされ、今西が行方不明だと知ります。

三辺は今西付きの営業事務員で、二人は親密な関係だと社内では思われています。

そのため、副社長から今西の居所を探してほしいと依頼される三辺ですが、良く考えたら、三辺は今西のことをほとんど何も知りません。

三辺は今西についていろいろと調べて行くうちに、今西の過去を少しづつ知ることになります。

今西は、職場も転々としており、様々な人と接していますが、その誰もがほぼ今西について詳しいことを知らないのです。

そして、今西についてのさまざまなエピソードが人々の口から語られるのですが…。

そして、今西は大阪出身なので関西弁を話すのですが、関西人の私からするとほんの少しだけ関西弁のイントネーションが違います。(西島秀俊さんは東京出身ということを思えばとてもお上手なのですが)

しかし、それが逆に今西の正体不明で不可解な雰囲気をうまく演出していると思いました。

口車に乗せられる人々

「口車に乗せられる」とは、何て怖いことなのでしょう。

知らず知らずのうちに、他人に気持ちをコントロールされているということです。

今西は、子供の頃にある大きな事件に関わることで、人を「口車に乗せる」ことを覚えてしまいます。

覚えるというより、目覚めるという方が正しいかもしれません。

今西の人生の背景には、悲しい事情があって、それがタイトルの「蛇の人」につながっていきます。

漫画家を夢見る大手企業に勤める青年を会社を辞めて漫画だけに打ち込ませたり、今西に気のある生命保険のセールスレディを自分の友人と結婚させ、分不相応な高級マンションを購入することをためらう新婚夫婦にマンション購入を勧め、不倫をしている友人に奇妙な共同生活を提案します。

次々に友人たちを口車に乗せ、それぞれの人生を今西の思い通りに操っているように見えます。

そして、みな、今西に感謝しているのですが、その結果は…。

三辺がたどる今西の過去は、回想シーンとして描かれているのですが、そのときどきの今西の目がとても怖いのです。

何を考えているのか誰にもわからないような、全く熱を帯びていない暗い目をしています。

西島秀俊さんの表情が素晴らしいです。

そして、今西は多くの人と関わってはいますが、自分のことをあまり語らないため、しがらみがなく、恐ろしいほど身軽です。

あっと言う間に身を隠し、要領よく次の居場所を見つけ出すことが出来るのです。

そして、その場その場で、今西はいい人のイメージしか残しません。

しかし、良く考えると、決してそうではないことがわかります。

タイトルの意味が最後にわかって

森の中

タイトルの「蛇の人」の意味は、観始めたときには、どうしてこのタイトルなのかがわかりません。

しかし、映画の終わりに向かうにつれて少しづつわかってきます。

そして、私には、三辺の勤める会社のビルのレトロならせん階段が、蛇を象徴しているように見えました。

三辺と今西は、本当にただの上司と部下の関係だったのですが、本当の気持ちはどうだったのでしょうか。

三辺には結婚を約束している彼氏(ムロツヨシ)がいますが、どこかで結婚をためらっています。

そして、そのためらいが今西にはわかっているのです。

三辺は、最後に意外なところで今西を見つけます。

驚きと共に、やっぱりそうか…という気持ちにもなります。

結末は曖昧な形で終わりますが、おそらく、誰もが同じ結末を想像していると思います。

とても、怖いストーリーなのですが、最後は少しホッとするような不思議な感覚に襲われます。

派手な映画ではありませんし、好き嫌いが分かれる映画ではありますが、時間のあるときにゆっくり観てほしいおすすめの一本です。

最後に

映画「蛇の人」の感想でした。

映画もドラマも、役者や監督も重要ですが、脚本の面白さや破綻のなさはとても重要だと思います。

その点でも、この「蛇の人」は素晴らしい作品だと思います。


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