映画「この世界の片隅に」 感想│平和であることの幸せを痛感

こんにちは。

はるき ゆかです。



映画「この世界の片隅に」の感想です。

素晴らしい作品です。

後世に残る名作・戦争映画です。

「この世界の片隅に」感想 はじめに

あらすじ

すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19年、20キロ離れた町・呉に嫁ぎ18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏してゆくなかで、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らす。

[引用元]Amazonプライムビデオ「この世界の片隅に」あらすじ

【監督】片渕須直

【原作】こうの史代

登場人物

浦野(北條)すず/のん
浦野家の長女。おっとりした性格で、素直。絵をかくのが得意。

北條周作/細谷佳正
すずの夫。穏やかで優しい性格。すずを心から愛する人。

水原哲/小野大輔
すずの幼馴染。絵の宿題をすずに代わりにやらせてその絵がコンクールで賞を受賞してしまう。

白木リン/岩井七世
すずが闇市に行った帰りに道に迷い、帰り道を教えてくれた遊郭の遊女。

浦野すみ/潘めぐみ
浦野家の次女。すずとは仲良しで原爆投下後は放射線を浴びた後遺症に苦しむ。

黒村晴美/稲葉菜月
周作の姉の娘。離れ離れになった兄の影響で、軍艦に詳しい女の子。すずに懐いている。

黒村径子/尾身美詞
周作の姉。若くして夫を亡くし、晴美を連れて実家に戻って来た。元モガで職業婦人。すずには少しきつく当たる。

クラウドファンディングで製作費を集めた作品としても話題

本作は、製作費の一部がクラウドファンディングで集められました。

4,000万円が調達され、それも話題となりました。

大人の事情?であまり宣伝が出来なかったようですが、大ヒットした名作アニメーションです。

主演のすずの声を担当した女優ののんさん、素晴らしかったです。

平和な日々

すずが嫁入りしてしばらくは、穏やかで平和な日々が続きます。

すずの日々

おっとりした性格で、ちょっと天然、そして絵がとても上手な女の子・浦野すず

すずは、18歳になったとき、広島の呉に住む北條周作に見初められ、北條家に嫁ぎます。

体の弱い姑のため、すずは嫁いだ翌日から一家の主婦として早朝から一生懸命家事をこなしています。

戦況悪化と共に、様々な物資が欠乏していくなかでも、アイディアをこらし、家族に少しでもおいしいと思ってもらえるよう食事を作るすず。

住所さえ知らない相手に嫁いだすずでしたが、夫の周作は優しく穏やかですずを大切にしてくれます。

舅も姑も、温かい人柄で、すずは幸せに暮らしています。

そんなある日、周作の姉・径子が嫁ぎ先から戻ってきます。

径子は、結婚前、モダンガールで、職業婦人という時代の先端を行く女性でした。

家事はそれほど得意ではありませんが、おしゃれで物をはっきり言う人です。

すずは、継ぎあてのモンペを着ていても平気ですが、径子に注意されて少し身なりに気をつかうようになります。

すずのおっとりとのんびりした性格に、本作の時代背景が戦時中の大変な時期だということを忘れてしまいそうになります。

食料品が手に入りにくくなり、苦労して料理しているすずも、とても楽しそうなのです。

ゆか
ゆか

厳しい時代の、どんな苦しい生活の中でも、すずは生活に「楽しみ」を見つけるのが上手な女性。素敵なことだと思います。

座敷童と白木リン

すずは、子供の頃、「座敷童」のような子に会ったことがありました。

祖母の家で、スイカを食べた終わって、お昼寝をしていたとき、天井板を外して一人の女の子が降りてきたのです。

そして、その子は、すずたちが食べたあとのスイカの残りの皮を食べ始めます。

優しいすずは、その子のために祖母にスイカをもらいに行きました。

この女の子の正体は?まさか本当に座敷童とは思えませんが…。

ある日、買い物に出たすずは、道に迷ってしまいます。

迷いながらも歩いているうちに、すずは遊郭に迷い込んでしまいます。

いい香りがする美しい遊女たちは、遊郭から外に出ることがなかったため、外の道には不案内です。

そのとき、すずは遊女の白木リンに出会います。

リンが自分が子供の頃、とても貧しかったことをすずに話している中で、「うちは貧乏じゃったから、人の食べた皮ばっかり食べとったよ。いっぺん、親切してもろて赤いところ食べたね…」と。

白木リンが、あの時の「座敷童」だったのです。

つかの間の幸せ

ある日、周作からすずに電話があり、家に忘れた帳面を持ってきてほしいと言われます。

すずは、少しおしゃれして出かけていきます。

周作は、すずと街に出かけるために、わざと帳面を持って来させたのです。

すずがとても幸せそうで、しみじみ幸せに浸っている様子は、観ているこちらまで幸せな気持ちになります。

戦時中はとても過酷な日々だったと思いますが、こんな穏やかなこともあったはずで、それがこの映画にリアリティを与えていると思いました。

水原哲との夜

海軍に入ったすずの幼馴染・水原哲が、すずに会いにやって来ます。

すると、周作はその夜、すずと哲を納屋で二人きりにしてあげるのです。

この時代、こういうものなのかな…と思いました。

親が決めた相手と無理やり結婚させられることが当然で、その人には本当に好きな人が別にいたかもしれない…。

しかし、そのとき既にすずは心から周作を愛していたために、哲とは何事もなく昔話をして夜を過ごします。

ただ、すずは周作に会う前、哲のことが好きだったようです。

ゆか
ゆか

戦争映画を観ていると、戦死した兄のお嫁さんが弟と結婚したりするシーンがありますが、この時代はこんなことも普通のことだったのかもしれません。

晴海の死と8月6日

燃える街

昭和20年に入ると、穏やかな日々が過ぎて、すずにたくさんの悲しく辛い出来事が襲い掛かってきます。

周作が一等兵層になる

周作の仕事は海軍の記録係でしたが、戦況悪化により、海軍一等兵層になることになります。

三ヶ月は家に帰って来れないようです。

すずと周作は、離れ離れになってしまうのです。

晴美の死

径子は、下関の夫の実家に娘の晴美を疎開させることにしました。

その切符を買う間の待ち時間に、すずが晴美を舅の円太郎のお見舞いに連れて行きます。

円太郎も、空襲で大ケガを負って入院しているのです。

お見舞いのあと、空襲警報が発令され、すずと晴美は近くの防空壕に入れてもらうことになります。

そこを出たあと、晴美とすずは時限爆弾の被害に遭い、晴美は亡くなり、すずは絵を描く大切な右手を亡くしてしまうのです。

小さな子供の命を奪い、絵を描くことが生きがいの女性の右手を奪い…。

この場面の表現が、とても象徴的でした。

すずの描く絵のように、素朴な絵で表現されているのですが、爆弾の怖さがさらに強く心に刺さります。

のんびりしたすずも、さすがに放心状態になり、自暴自棄になっていきます…。

命が助かって「よかった」…。

不発弾だったから「よかった」…。

傷の治りが早くて「よかった」…。

熱が早く下がって「よかった」…。

「よかった」と言われるたびに、すずには何が「よかった」のかがわからなくなります。

ゆか
ゆか

穏やかな生活を送っていたすずが、突然不幸のどん底に突き落とされてしまいます。晴美ちゃんを守れなかった自分を責め、大好きな絵ももう描けない…。

広島に原爆投下

すずが嫁いだ呉には、海軍工廠があるので爆撃されることが多く、焼け野原になっています。

その頃、広島はそれほど空襲もなく、穏やかだったようです。

妹のすみの勧めもあり、すずは広島の実家に帰ることにしました。

しかし、径子に「晴美が亡くなったことをあなたのせいにしてごめん」と謝られ、これまでの人生について話しているうちに、すずは、自分の居場所はこの家だと改めて思うのです。

そして、そのとき…。

空がぴかりと光り、風が吹き、空には大きなキノコのような雲が。

広島に原爆が投下された瞬間です。

すずは、今すぐにでも広島へ行きたいと思うのですが、怪我をしているすずは行くことが出来ず…。

浦野家は、母は即死、父は病死、生き残った妹のすみは、原爆の放射能を浴び、原爆症を発症していました。

腕のあざからみると、白血病になってしまったようです。

ゆか
ゆか

安全だとばかり思っていた広島に原爆投下。世界で初めての被爆。おっとりしたすずを次々と悲しみが襲い掛かります。

第二次世界大戦終戦

すずは、天皇の玉音放送を聞き終わって…。

今までの自分たちは一体何だったのか?

最後の一人になるまで戦うんじゃなかったのか?

そして、死んだ晴美を思い、一人泣き崩れる径子。

「なんも考えん、ぼうっとしたうちのまま死にたかったな」と感情を爆発させるすず。



戦争が奪っていったものはあまりにも大きすぎて、すずは抱えきれなくなってしまいます。

それでも生きていく

今までのつらい日々や経験。

しかし、すずはそれを乗り越え、これからもずっと生きていくのです。

哲を見かけて

近所の女性と農家に着物や服を売りに行って、食料を調達しにいったすずは、その帰り道に哲を見かけます。

しかし、すずが哲に声を掛けることはありませんでした。

ただ、生きていることを確かめることが出来ただけでよかったのです。

この世界の片隅に

11月で海軍がなくなり、お役御免になったと周作が帰ってきます。

そして、二人が初めて出会った橋の上から川を眺めているすずと周作。

「周作さん、ありがとう。この世界の片隅にうちを見つけてくれて」

すずは、周作と出会う運命だったのです。

心がほっこりあたたかくなるシーンでした。

戦災孤児の子供を連れて

本作は、広島が舞台となっていますが、原爆の悲惨なシーンがほとんど出てきません。

しかし、唯一最後に、原爆で体にガラス片が突き刺さり、右腕を吹き飛ばされて亡くなった女性とその子供のシーンがあります。

母親は、その場で亡くなり、子供だけが残されます。

周作とすずが、呉に帰る汽車を待ちながらおにぎりを食べていると、すずが一つおにぎりを落としてしまいます。

それを、その子供が拾ってすずに返そうとするのですが、すずは「食べてええよ」と。

すると、その子は、右腕のないすずを見て、母を思い出し、その腕にすがりついてきます。

すずと周作は、その子を呉の家に連れて帰ることにしました。

ちょうど、晴美と同じくらいの年の頃で、径子もうれしそうです。

北條家の失われた一つの小さな命が、戻って来たのです。

最後に

映画「この世界の片隅に」の感想でした。

本作は、とても柔らかなタッチの絵のアニメーションです。

戦争を扱ったアニメではありますが、とてものどかでゆったりとした雰囲気。

しかし、そのシンプルなアニメーション画像が、逆に戦争の悲惨さを痛感させてくれます。

亡骸や爆弾で体を吹き飛ばされるなどの残酷なシーンが多いと、そちらに気持ちが持っていかれることが多いですが、本作はそうではありません。

より一層、戦時中の人々の気持ちや苦しみが理解でき、今の平和な時代を大切にしなければと感じさせてくれます。

世代を問わず、おすすめの映画です。


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