映画「劇場」 感想|ここが世界で一番安全な場所

こんにちは。

はるき ゆかです。



映画「劇場」の感想です。

4月公開予定でしたが、コロナウィルス感染拡大のため、公開延期となっていたのですが、劇場公開とともにAmazonプライムビデオでも視聴することができます。

原作は、又吉直樹著「劇場」です。

「劇場」 あらすじ

高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山崎)。しかし、その劇団は上演ごとに酷評され、解散状態となっていた。ある日、永田は街で、偶然、女優になる夢を抱き上京し、服飾の大学に通っている沙希(松岡)と出会う。常に演劇だけのことを考え、生きることがひどく不器用な永田を、沙希は「よく生きてこれたね」と笑い、いつしか二人は恋に落ちる。沙希は「一番安全な場所だよ」と自宅に永田を迎え一緒に暮らし始める。沙希は永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女に感じたことのない安らぎを覚えるが、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していくー。夢を叶えることが、君を幸せにすることだと思って。©2020「劇場」製作委員会

[引用元]Amazonプライムビデオ「劇場」あらすじ

【監督】行定勲

【出演者】山﨑賢人 松岡茉優 寛一郎 伊藤沙莉 井口理(KingGnu)

永田の生き方

映画の中では、主人公の永田(山﨑賢人)は、とても不器用だとされています。

しかし、私は永田は不器用だとは思いませんでした。

器用、不器用と言葉では、彼を表すことができないと思います。

顔が「山﨑賢人」だからからかw、街角でホームレスのような恰好をした永田が沙希(松岡茉優)に話しかけ、そのまま一緒にお茶を飲むことになります。

それも、お金がないから沙希におごってもらうという…。

永田は、高校時代から演劇に興味を持ち、同級生の野原と共に、高校卒業後すぐに上京し「劇団おろか」を旗上げします。

何度か上演しますが、酷評されてばかり。

劇団員からも不満が噴出します…。

そして、永田は、劇団員の意見を一切聞き入れず、他の劇団から馬鹿にされていることを自分に聞かせて「俺を傷つけたいわけ?」などと情けないことをいうのです。

女性劇団員の青山(伊藤沙里)が、

「さすがの永田さんでも傷ついちゃいました?」

「ああ、演劇辞めろって言われたように聞こえたからね」

「そう思ったならあやまりますけど…」

すると、あろうことか女性の青山に、一生忘れられない暴言吐いてすぐあやまるから、ルックスのことか、自分をいい女だと思っている恥ずかしい女への暴言、どっちが聞きたい?と、キレます。

ゆか
ゆか

このシーンは、よっぽど自分のルックスに自信がある女性以外は、ほぼ傷つくシーンです。そして、普段なら言わないことも相手にぶつけてしまいたくなる心がギュッとなるシーンでした。

批判を受け止めることができない人は、芸術を生み出すことはできないでしょう。

そして、新作を書いて、もともと女優志望だった沙希に出てもらおうということになります。

さらに、沙希は永田の台本を読んで泣くのです。

沙希のおかげで、「劇団おろか」は少しだけ評判になります。

しかし、永田はこの一作だけで、あとは沙希を女優として使うことはなかったのです。

そして、永田は沙希のアパートに転がり込み、なし崩し的に同棲が始まります。

才能とタイミング

いつも感じていることなのですが、私は「才能」というものは、元からその人が持っているもの+「時代」「タイミング」といったものも加わって、初めて開花するのではないかと思います。

あと10年早かったら、遅かったら…認められていたのにと。

自分に才能があるかどうかというのは、実は自分が一番わかっているものなのだと思います。

特に、芸術家を志す人は周りから揶揄されることが多い。

絵、音楽、演劇、映画、文学…。

芸術家には、遅咲きの人と若くして認められる人とがいます。

亡くなってから認められる人がとても多いのが、画家。

おそらく、その後世に認められる芸術家は、時代にマッチしていなかっただけで、才能自体は確かにあったのです。

生きているうちは、認められなくて失意のうちに亡くなっていくのは悲しいことですが…。

ある有名な画家の作品展を観に行ったことがあります。

初期・中期・後期と、分けられて展示されていたのですが、全く別人が描いた絵のようでした。

絵が売れ始めた頃の絵は、正直、素人目に見ても雑で面白みがなくつまらない絵でした。

その画家の絵は、初期は瑞々しく丁寧に描かれた絵なのですが、私個人としては亡くなる直前の絵が最も心惹かれました。

一人の芸術家の人生の中でも、才能が発揮されるタイミングが存在するのです。

ところで…

本作の主人公である永田には、演劇の才能があったのでしょうか。

演劇に没頭するために、生活費を稼ぐ仕事はほとんどしていません。

初めは、どうやって生活してきたのだろうと思いますし、沙希(松岡茉優)にも「よく生きてこられたね」と言われます。

さらに、ひどい暴言を吐いた相手である劇団員だった青山さんに、ライターの仕事をもらうのも全然平気なのは、プライドがあるんだかないんだか…。

時代やタイミングも大切ですが、もとの才能がなければどうにもなりません。

ある意味、傍若無人な振る舞いや失礼な言動も、才能がある人だからこそ許されるという部分はあると思います。

沙希の母が、小包を送ってきたとき、「半分は知らない男に食べられるのかと思うと嫌だわ」と冗談で言ったことにも、永田は傷つきます。

劇団員からの批判についても傷つき、沙希の母のちょっとした冗談にも傷つき…。

それを相手にはっきり伝える永田。

同棲していながら、沙希が光熱費だけでも入れてほしいと言うと、人の家の光熱費をどうして払わなければいけないのかわからないという永田。

永田は、本当は自分に才能がないことや自分がクズだということをわかっていて、それを認めることができないのだと思います。

そして、自分に才能がないことを、沙希には決して知られたくないのです。

松岡茉優さん、いい女優さんだなと、この映画で改めて感じました。

この映画も、松岡茉優さんが出ていればこそ成立しているように思います。

まるで天使のように優しく、子供のように愛らしく、そこには「わざとらしさ」の欠片もないのです。

移り変わる沙希の心が映し出される表情が、本当に素晴らしいです。

永田のよくわからない理屈に、逆らわないでうなずきながら聞く沙希。

いつか幸せになってほしいと、映画を観ながらずっと思っていました。

そして、劇団「まだ死んでないよ」という注目の人気劇団の演出家・小峰役で、「GingGnu」の井口理さんが出演されています。

出演シーンは多くないのですが、存在感がすごいです。

これが、才能がある人のオーラというものでしょうか。

そして、小峰は生みの苦しみを知っているからか、永田に対して馬鹿にしたような態度を一切取らないのです。

ゆか
ゆか

井口理さん、俳優としてもこれから活躍される予感。とにかく、存在感が半端ないです。



永田は関西出身という設定です。

関西人の私からすると、関西弁が聞きづらいところが、残念でした。

山﨑賢人さんが東京出身で、永田は「上京してきて演劇をやっている人」なので仕方がないのかもしれませんが。

しかし、王子様的な容姿をされていて、それが先行しているように見える山﨑賢人さん、こういうクズなどうしようもない男の役も、とてもよかったです。

沙希の信じるもの

コーヒーカップ

沙希は、本当に永田の才能を信じていたのでしょうか。

それとも、才能がないことを知っていたから放っておけなかったのでしょうか。

ある日、仕事を回してくれる青山さんが、沙希のバイト先のお店によく行くことを聞かされ、沙希が自分の彼氏が演劇をやっていたことを言わなかったことに、永田は、また傷つきます。

本当に、傷つきやすい永田

しかし、永田は、才能がなくて甲斐性もなくて「傷つきやすい」男ですが、浮気をしたりギャンブルに狂ったりはしません。

そのため、沙希は突き放すことが出来なかったのかもしれません。

沙希にとって、はっきり切り捨てられる理由が永田にはなかったということです。

そして、7年もの時間が過ぎていきました。

しかし、永田を初めて自分の家に呼んだとき、「ここが一番安全な場所だよ」と言った沙希は、永田が一人で住むと言い出したときからずっと「傷ついていた」のです。

一切、そんな素振りは見せずに。

永田と小峰(井口理)の対面のシーンは、永田がどれだけ自分をみじめに思ったか…と、胸が締め付けられます。

知らないわけがない小峰の劇団名「まだ死んでないよ」を知らなかったふりをして、クズだと噂の沙希の恋人「永田」を、売れっ子劇団の劇団員に好奇心いっぱいの目で見られて…。

映画を観ながら、ずっと気持ちが曇っていました。

気まずい空気が、ずっと心に渦巻いて。

それが、ラストシーンの演出で一気に晴れます。

本当に素晴らしいんです。

人生そのものが「劇場」として。

映画を観ている間中、モヤっとし続けていましたが、最後は、沙希のこの7年間はもしかしたら悪いものではなかったのかもしれないと思え、救われました。

最後に

映画「劇場」の感想でした。

又吉直樹氏の原作は、未読です。

ぜひ、読んでみたいと思いました。

本作は、ラストシーンがとにかく素晴らしいので、途中までモヤモヤした気持ちでも、何とか持ちこたえて最後まで観ていただきたいと思います。

松岡茉優さんが見せてくれる、表情の変化や滲み出す気持ちを観るだけでも価値があります。

おすすめの一本です。


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