映画「少年」感想|少年に当り屋をやらせていた一家の物語

こんにちは。

はるき ゆかです。



映画「少年」の感想です。

1969年公開の大島渚監督作品です。

高知から北海道まで、当たり屋をしながら逃げ延びていく一家の物語です。

「少年」 あらすじ

戦争で傷を負ったことで定職につかない男とその先妻の息子(少年)。男の同棲相手と彼女との間に生まれた子(チビ)。家族の絆が希薄な一家は当たり屋で生計を立てている。一箇所で仕事を続けると足がつくという理由で、一家は次々と場所を変えて旅をする。少年は車の前に飛び出す恐怖と両親への抵抗から何度も逃げ出そうと試みるが、結局は逃げた後に味わう孤独に打ちのめされて家族の元に帰るしかなかった。そして、一家は反目しあいながら、とうとうその先には海しかない北海道の最北端まで辿り着くのだが…。

[引用元]Wikipedia映画「少年」あらすじ

【監督】 大島渚

【出演者】 渡辺文雄 小山明子 阿部哲夫 木下剛志

1966年に実際に起こった当たり屋夫婦の事件を元に製作された映画です。

少年役の阿部哲夫は、当時、養護施設に収容されていた少年でした。

少年の罪悪感

走る少年

主人公の「少年」はまだ10歳です。

戦後20年当時、当たり屋をして生活をしている人々は少なくなかったようですが、この一家はこの10歳の少年に当たり屋をやらせていたところが罪深いところです。



少年は当たり屋を「仕事」と呼んで、親の言う通りに仕事をしていましたが、ある日、家族と離れて汽車に乗り、一家のもとから逃げ出します。

小さな子供にとって、危険な仕事をさせられる苦しみはどれほどのものだったでしょう。

しかし、やはり寂しさに負けて、数日でまたこの一家の元に戻って来るのです…。

この映画はカラー作品ですが、少年の心を映し出すときだけ、モノクロになります。

その辺りも、彼の苦しみがよく表されていると思いました。

少年は、親に言われて渋々やっていた当たり屋ですが、弟の「ちび」を助けるために車の前に飛び出したときに、ある事件が起こり、罪悪感に苛まれるようになります。

少年にとって、その事件が起こるまで、仕事は罪悪感というより恐怖でしかなかったようです。

そして、その事件で残された赤い長靴が、映画の中で象徴的に使われています。

少年は、その事件の罪悪感から、自ら命を絶つことを考えるのですが、それも出来ず…。

チビのこと

少年の弟・ちびは、3歳

こんな小さな子も連れての当たり屋行脚でした。

ちびの愛らしい様子は、映画の中でいくらかの癒やしにもなりますが、それ以上に不憫さを感じさせます。

少年は、ちびにいろいろな自分の空想話(宇宙人の話)を聞かせます。

兄の口写しで、その空想話を可愛らしい片言で繰り返す場面は、とても可愛らしく愛らしいです。

一家が北海道に辿り着き、ある事件起こしたあと、少年とちびは雪遊びをします。

円錐形の雪だるま(のようなもの)を少年が作り、それを宇宙人に見立てて、体当たりで崩す場面は、ある事件への罪悪感と自分の境遇への怒りなのか…。

老婆心ですが、雪の中にじっと座っているちびちゃんが、風邪引かないかしら…と心配になりました。

傷痍軍人の現実

父親は傷痍軍人で、ある旅館に泊まったときに、服を脱いで、肩と腕に弾を受けたのだと少年に語るシーンがあります。

少年に「お前は車に当たるだけで、生き死になど感じたことはないはずだ。俺はそれを戦争で見てきたのだ。そんな父親をバカにするのか!」と少年に理不尽な怒り方をするのですが、なんだか虚しくなりました…。

父の傷跡は、普通に生活する分には、特に不自由はないように見えますし、服を脱がないとわからないくらいです。

しかし、自分が傷痍軍人であることを理由に、まともな仕事についていないことを当たり前のような言い分、さらに子供に当たり屋をやらせていることを正当化している父に、とても複雑な気持ちになりました。

戦後20年経っているのに…です。

そこで、両親は、小さな二人の子供の前で殴り合いになります。

そのシーンの背景にたくさんの位牌のようなものが映し出されているのは、戦没者の位牌を表しているのでしょうか。

この時代は当たり前なのかもしれませんが、父親の存在は絶対的なもので、自身は働いてもいないし、少年に危険な「仕事」をさせているのにお金が入るとすぐに大散財します。

お金がなくなってくると自分だけ快適なホテルに泊まり、母親と子供たちは、安宿に泊まらせるのです。

それは、身を隠すために二手に分かれるためだと言っているのですが、かなり嫌な気持ちになりました。

「仕事」をしているのは少年であって、父親ではないのです。

控えめに言ってクズです。

最終的には、一家は「仕事」を辞め、大阪の文化住宅で平穏な生活を始めるのですが、突然、逮捕されます。

少年は、事件については一切語らず、ある「仕事」で警察に撮られた写真の自分のことを「これは宇宙人だ」と言います。

彼は、自分が普通の少年で宇宙人ではないから、何も出来ない…と思っているのです。

ラストシーンの少年の涙に、心が痛くなります。

最後に

映画「少年」の感想でした。

ラストシーンは、野村芳太郎監督の「鬼畜」を思い出しました。

この映画での「仕事」は、完全な児童虐待ですが、最後まで子供は親をかばうのです。


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