映画「楽園」 ネタバレ感想|人は楽園を求め生きていく

forest

こんにちは。

はるき ゆかです。



映画「楽園」の感想です。

人は楽園を求めて生きています。

しかし、この世界に楽園などあるのでしょうか。

人の悪意が人を疲弊させ、自分の心を落ち着かせるために生贄を求める。

映画「楽園」の感想 はじめに

dark wood

登場人物

中村豪士/綾野剛 7歳のときに中国から日本に来た青年。少し足が悪く、大人しい性格。紡とある出来事から心を通わせることになるのだが…。

湯川紡/杉咲花
 地元出身の少女。失踪した愛華は親友だった。自分が助かったことで罪悪感を持ち付続け、自分は幸せになる資格などないと常に自責の念を感じている。地元で働いていたが、東京の青果市場で働き始める。

田中善次郎/佐藤浩市
 田中は、この限界集落で養蜂業を行い、町おこしをしたいと思い、街からこの村にやって来た。初めは田中が作るはちみつは評判がよく、村の人々ともうまくやっていた。しかし、ある日ちょっとした誤解からトラブルが起こる。田中はこのトラブルが元で孤立を深め、最終的にはこの集落の老人たちを…。

野上広呂/村上虹郎

紡の同級生。紡と仲良くなりたいがうまくいかない。野上も街の青果市場で働いていたが、紡を追って東京に出る。そして、突然体調を崩し、入院することに。完治の難しい難病だった。

黒塚久子/片岡礼子
 村の未亡人。子供が一人いる。田中善次郎と恋仲になりそうだったのだが…。

中村洋子/黒沢あすか
 愛華の事件の犯人とされる豪士の母親。既に豪士がなくなってしまったので、真実は闇の中。洋子は豪士が犯人だとは思っていない。

田中紀子/石橋静河
 田中善次郎の妻。若くして病で亡くなる。

藤木朝子/根岸季衣
 愛華の祖母。認知症を患っている。

藤木五郎/柄本明
 愛華の祖父。愛華を殺害したのは豪士だと信じている。

あらすじ

映画「楽園」は、Ⅰ・罪、Ⅱ・罰、Ⅲ・人の3つの章から構成されている。

Ⅰ・罪

ある地方都市にあるY字路で、幼女失踪事件が二件起きる。12年後に起こった事件では少女は無事保護されたが、12年前に行方不明になった少女は未だ見つかっていない。紡(杉咲花)の友達だった愛華だ。この事件で犯人と疑われた豪士(綾野剛)は、二つ目の事件が起こったとき、「愛華を殺害したのは豪士だ」と愛華の父親に問い詰められ…。

ゆか
ゆか

中国移民の人々や誘拐事件で被害に遭わなかった側の女の子を追い詰めるやり方も、立場の弱い人をいじめているようにしか見えません。誰かを犯人にしないと、家族は気持ちの持って行きようがないようです。
しかし、豪士は、本当に愛華ちゃん誘拐事件に関与していたのでしょうか。
映画の中には、それを示唆するようなシーンも出てくるのですが…。

Ⅱ・罰

愛華の親友・紡は、自分だけが生きる残ったことに、大きな罪悪感をいだく。その日、愛華がうちに遊びに来ない?という誘いを紡は断っていたのだ。自分は幸せになってはいけないのだと、自分にいつも言い聞かせている。
田中は、この村が蜂蜜を作るのに最適だといい、はちみつで村おこしをしようと村人たちに提案する。その提案に対する村人たちの反応は悪いものではなかったのだが…。

ゆか
ゆか

「村八分」というのは、本当に残酷。田舎ののんびりした生活に憧れて田舎暮らしを簡単に始めてしまうのはとにかく危険…。

Ⅲ・人

広呂が病気(白血病?)で入院したと聞いた紡は病院に駆けつける。髪や眉も抜け、げっそりとした広呂は、それでも紡に快活に笑いかける。一方、村での田中対する嫌がらせは、今まで以上にエスカレートしていた。この頃には、善次郎の先祖代々の墓にまで落書きがされるようになってきていたのだ。怒りが爆発する田中。そして、とうとうある日、猟銃で老人たちを次々と殺害し、善次郎も自ら命を絶ってしまうのだった。紡がいた病院のTVでも大きく報道されていた。

ゆか
ゆか

救急搬送された田中を、愛犬のレオが追いかけていくシーンは胸が痛くなりました。しかし、田中は救急車の中で心肺停止が確認されます。村人たちはどうしてここまで田中を追い詰めたのでしょうか。

【監督】瀬々敬久

映画「楽園」の感想 

森の木々

本作は、実際に起こった事件を小説化した原作を元に映画化されました。

吉田修一著「犯罪小説集」の『青田Y字路』と『万屋善次郎』の二作です。

解決しない物語

田舎のY字路で、誘拐され行方不明になっている少女の事件は、本作の中で解決しません。

豪士が犯人であるかのような描写はところどころ出てくるのですが、豪士は事件の真相を語らず(犯人ではないなら語ることも出来ませんが)、彼は焼身自殺をはかるからです。



中国からの移民で日本語をうまくしゃべれない豪士は、警察の取り調べでも本当のことをうまくしゃべれなかったのではないかと思います。

しかし、本作の中の豪士は、少女を襲って殺害するような凶暴な人間には見えません。



ただ、観客に「どっちなんだろう」と疑問を残すような描写。

本作は、実際に起こった事件が元になってはいますが、小説の中でも事件は解決しません。



綾野剛さんの演技だけを観たら、私には豪士が犯人だったとは思えないのですが、それならばなぜ焼身自殺をしてしまったのか。

追い詰められた立場の弱い人の最期の叫びだったのかもしれません。



田中善次郎は、移り住んだ村の人々とのちょっとしたトラブルから、「村八分」にあってしまいます。

今の時代に「村八分」など存在しないようで、実際には「村八分」と同じくらい善次郎は嫌がらせを受けています。

村はとても小さい限界集落。

ひとつ何かあったら驚くほど、すぐに村全体に知れわたるという恐怖。



私の大学の同級生にも、田舎の小さな街出身のA子がいました。

大学から紹介される下宿屋さんに住んでいたのですが、大家さんが大学のOGで、住んでいるところは別でした。

A子は、やたらと周囲の目を気にしていました。

私もその頃は、田舎は都会よりのんびりしていてのどかなものという印象しかありませんでしたが、いろいろ話を聞いていると驚くようなことばかりでした。

A子は、いつも部屋をきれいにしていて、部屋のドアから片付いていない部屋を他の下宿人に見られたら何を言われるかわからないといつも言っていました。

「そんなに他の部屋の人のことなんて、気にしないと思うよ」と私が何度言っても、彼女は聞く耳を持ちません。

4年間、そこに住んで何となく理解はしてくれたようですが、田舎で暮らすことの大変さが身に染みているんだなと思います。



何でも屋さんの善次郎さんは、高齢者の多い村に馴染むために一生懸命だったのだと思います。

しかし、村の掟を破ってしまってからは、どれだけ協力的になろうとも受け入れられることはありませんでした。

小説の方では、善次郎さんの良くない部分も描かれているようですが、映画ではただ「なぜ、ここまで?」という気持ちにしかなりませんでした。



お墓に落書きされたら、警察に届出たりされても文句は言えないはずですが、役場やおそらく警察も「この地での常識」を重んじているのだと思います。

この村に妻と共に移り住んで、妻に先立たれた善次郎さんは本当に一人だったのです。

それも、放っておかれる孤独ではなく、積極的に嫌がらせをされるなんて、どれだけ辛かったことか。

殺人を肯定する気持ちは毛頭ありませんが、精神的におかしくなる気持ちもわかります。



少しづつ壊れていく善次郎さんを演じる佐藤浩市さんの演技、素晴らしかったです。

綾野剛さんの演技にしびれる

綾野剛さんの目の演技が素晴らしかったです。

いつも、どこか怯えたような諦めたような悲しい目の豪士。

任侠ものや刑事、ラブコメなど、いろんな役を演じられている綾野剛さんですが、本作では細くていつも震えているような手足も、観ているだけで悲しみが伝わって来るようでした。

本当に素晴らしい俳優さんだと思います。

本作を観て、さらに他の作品をもっとたくさん観たくなりました。

広呂の明るさに救われる

誘拐された愛華ちゃんの友達役の紡ちゃんを演じた杉咲花さん。

子供の頃から、愛華ちゃんを一人にしてしまった自分を責めて、明るい未来を想像することすら自分に許さない紡ちゃんがあまりにも可哀想です。

その紡のことが好きな広呂。

広呂は、重い病気に罹ってしまいますが、とても前向きで「がんばろう」という気持ちに溢れる本当の意味で「元気な男の子」です。

弱い立場のものを追い込んでいじめるという救いのない物語の中で、広呂の明るさは本当に救われました。



愛華ちゃんの事件の犯人は、最後まではっきりと解明されることはありませんでしたが、それは本作を観た私たち観客がそれぞれの中で考える余白を与えられ、余韻が残る素晴らしい映画でした。

モヤモヤするという感想もあるようですが、私はそのモヤモヤが映画についてもっと深く考える結果となりました。

映画「楽園」の感想 最後に

映画「楽園」の感想でした。

本作は原作の小説集があるのですが、購入済みで今読んでいる本が読み終わったら読みたいと思います。

もっと心を柔らかくして、人の気持ちをくみ取れる人間になりたいと思いました。



そして、やはり、上手な俳優さんが出ている映画は見応えあります。

おすすめです!



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